坂東玉三郎さんの歌舞伎衣裳製作顛末記 その2

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「天守物語」富姫の内掛け

 

最初に 天守物語 富姫 の内掛け製作に着手いたしましたが、その時点では歌舞伎の舞台衣裳のことはほとんどこちらも理解しておりませんでした。キモノの内掛けの基本的にそう変わるものではないと思っておりました。ところがそうでは有りません。確かにその形などはそんなに違うものではありませんが、その用途などから来る違いはとんでもなく大きいものです。

舞台衣裳は少なくとも 10 m以上はなれて見ますので、遠くから見てもよく分かるようにというのが前提ですので、目立つということが基本です。方や私どもが作るキモノはそんなに目立つものは避け、近くで見て初めてそのキモノの価値なりが分かるそこはかとない上品さなどを考えます。ですからまずデザインの基本構想が違います。舞台衣裳は一つ一つの柄でも大きく大胆に表現します。キモノはその点繊細に上品な表現を心がけますので、そのままでは舞台ではいくら精緻な仕事がしてあっても目立ちません。私もある程度そのことは分かってはいたつもりでしたが、やはりどうしてもキモノ作りになってしまいます。

ちょっと話がそれますが、「天守物語」はご存知の方もおられるでしょうが、泉鏡花の原作で、白鷺城 ( 姫路城 ) に棲みつく魔界の女性「富姫」と人間界の若侍

(姫川図書之助)との恋の顛末を描いたファンタスティックな時代劇で、歌舞伎だけでなく、オペラ、人形劇などいろいろな形で演じられています。 10 年前には玉三郎さん監督、主演で宮沢りえさんも共演した映画も製作されています。

歌舞伎では玉三郎さんの当たり役としてつとに有名です。その主人公の「富姫」の今回おつくりした内掛けは、最初の方の場面で使われるもので、 御簾に薬玉 の模様をつけます。歌舞伎の衣裳はその役によってその着る衣裳も模様も大体決まっております。したがって御簾に薬玉と聞けば、「ああ天守物語の衣裳だな」と知っている人にはすぐ分かります。今回製作するに当たって以前におつくりになったものを見本としてお預かりしたのですが、もちろんそれも御簾に薬玉でした。それをアレンジしておつくりしたわけです。

まずこの衣裳の生地の選定からはじめましたが、見本は普通のキモノの生地を使ってありましたが、小幅でしたので、玉三郎さんは手が長いこともあって、袖の部分が継いでありました。こんな格好の悪いことは無いと思い、色々生地を探して広幅の繻子(しゅす)系の生地がありましたので、玉三郎さんに見ていただいてそれを使うことにいたしました。ご指定の色 ( 紫系 ) に染め上げ、これもご検分いただきました。総刺繍をするにはやや柔らかい生地で心配でしたが総裏打ち ( 薄い生地を裏につけ一緒に刺繍します ) をすることで解決できるだろうと言うことで仕事にかかりました。総刺繍ですので本手描き友禅に比べると工程は若干短いですし、仕事の要は確かに刺繍の職人さんです。でもやはり一番肝心な仕事はその柄を描く下絵やさんです。

先号でも述べましたが、本来こうした衣裳は衣裳専門の製作会社で作りますので、その下絵も衣裳に慣れた人が描くわけです。キモノ専門で作っているところで歌舞伎舞台衣裳の製作を手がけたところは知る限り皆無ですので、誰かに色々教えてもらうことも出来ません。それでインターネットで探していたところ、衣裳会社で下絵を書いている人がホームページを立ち上げていました。

カブキッズ というサイト名ですのでご興味あればご訪問ください)その人も以前はキモノの仕事をしていたので、舞台衣裳との違いをよくご存知でしたし、メールを差し上げ、以降色々お教えいただいています。

今回もその柄付けのヒント、注意点などを教えて頂いて、京都の職人さんと色々試行錯誤してデザインしたわけです。しかしそれでも本来の舞台衣裳よりも薬玉の柄も細かく繊細になり、結果的に加工がべらぼうに重くなってしまいました。刺繍の職人さんには大変な苦労をかけることになってしまったのは申し訳なかったのですが、ただ従来の舞台衣裳に無い上品さがあることは間違いないと思います。

下絵も見ていただきましたので、いよいよ刺繍に入るわけですが、前回で述べたとおり、この時点ではまだ間に人が入っておりましたので、玉三郎さんのご意向がもう一つよくつかめず、配色その他もお好みが分かりませんでした。

間に入っていた人からは、舞台衣裳は目立たなければと言う意味で、派手目の配色をしてくれというような漠然としたご注文でしたので、若干不安ながら仕事を始めました。以下また来月にさせていただきます。

                        



高橋泰三   拝

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