先立つものは

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元々夏場は呉服業界は暇なのですが、盆明けには秋からの商品の納品で急に忙しく商っていたものです。

メーカーは春先に秋物の発表会をして追加も含めた受注を取り、夏が過ぎて一斉に納めていくのです。

ところが近年はまったくそういうこともなく、年がら年中委託商いに終始し、小売店やデパート、チェーン店も商品リスクを回避しているところがほとんどで、作り手は貸すために物作りをするという、非常に消化不良の商いを続けています。

特にいわゆる上物は生産に時間と金が掛かりますから、頑張って作れば作るほどお金が先行して出て行きますから、キャッシュフローが大変厳しい状況となり、結局そのためにまた借り入れをおこすなどして行かざるを得ません。

それでもかつては出来上がってきて売れるという見込みや自信もあったので、気になりませんでしたが、近年は買い取りをしてもらえないと言うことだと、作って出来上がってきていきなり委託などと言うことになりかねません。

リスクを張って長い時間を掛けて作ったものを貸さないと売れないと言うことでは、特に店外の催事などでとんでもない値で販売されていると、製作意欲は減退するばかりです。

物心共に厳しい状況では、高級な絵羽ものの生産は益々減っていくばかりでしょうから、そういうものを見る機会もなく、良いキモノというのは何かと言うことが分からない消費者は、婚礼でつまらない黒留袖でもそんなものかと思って借りてしまいます。

見る目がない業者が激増している中で、本当にセンスの良い物を店頭で見る機会は益々喪失し、そのために又売れないという悪循環です。

こうした状況下でリスクを張って高級なものの生産を続けることは極めて難しく、結局売れ残りがあっちへ行ったりこっちに来たりしていて、目新しいものはどんどん減っていきます。

かつてのように売れていたら、いくらでも作れるのですが、伝統文化も知らない人は、お茶もお花も稽古をせず、それが今時は何の恥にもならず。結局一生キモノを着ない女性が現れ、お金があってもキモノは必要なときに借りれば済むと思っている女性も激増しています。

日本人の日本知らずは今に始まったことではなく極めて世界的に見ても恥ずべき事ですが、教養を持ち合わせないものにはそれがおかしな事とも思えません。

海外行って初めて恥をかきますが、平気の平左の無神経です。テレビでコメンテーターをしている女性でも、ほとんど日本文化を知りませんね。

アイデンティティを喪失していながらそのことの異常さに気がつかない異状を続ける限り、この国に明るい未来はないでしょう。

私も高級な物作りをしてきた1人として極めて悲しく悔しい思いはあっても、今の需要では潤沢な物作りは不可能です。

お誂えならリスクが回避できますのでお受けは致しますが、最高品質を保証できるのは後数年だという実態もありますし、近い将来一つの日本の文化が消滅していくのだろうと思いますし、間違いが無いでしょう。

まあそれは社会の環境によって廃れる文化など古今東西数え切れなくあるわけで、仕方が無いことだと思います。

日本人が守ってきたはずの文化を理解できる人が世代交代と共に激減し始めれば、当然次の世代に合わせた考えで商うしかありませんし、それがレンタル、リサイクル一辺倒でもいた仕方ありません。

キモノそのものへの知識もないものがこのキモノ業界に参入し、そういう商いをするから余計にまさに文化崩壊を生みます。

まあ私も生きている間できる限り、正しいと我々が信じてきた文化の啓蒙と、チンドン屋まがいの着姿への警鐘は鳴らし続けていきたいといつもながらに思って居ます。

仕事の断捨離

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2日に火事があって、次の日から瓦礫処理やいわゆる断捨離行動の毎日です。

現在京都本社として使用している数寄屋の家に仮住まいをするためには、この家にある物をまずは断捨離しなければなりませんので、それがまず大変です。

燃えた家からのものを運び込むためにはそれ相応のスペースが要りますから、こうしたことをするのは当然とはいえ、酷暑の中熱中症に気をつけながらも、毎日作業をしております。

家は新しくなりますが、仕事上の種々の断捨離はなかなかに難しく気を遣います。

手描き友禅の高級な絵羽物(振袖、黒留袖、色留袖、訪問着)の生産を中心に親子2代で続けてきて、過去の作品の写真などを見るにつけ、本当に美しく華麗なキモノを作ってきたものだと懐かしく思い出しております。

キモノという世界最高峰の衣装文化は、この20年で急激に崩壊への道を早めていますが、伝統文化への造詣がゼロにも近いような政治家や官僚、目先の金しか頭にない財界人ではまあ致し方ないでしょうし2度とかつてのような物作りが復活することもないでしょう。

先月も同業で、高級な絵羽物を主に物作りをしていた人が、東京日本橋のとんでもないカスのような問屋に大きな被害を受けて、廃業されたのですが、その後まもなく亡くなり驚きました。

ずっと癌を煩っておられたようで、まさに仕事に命を掛けてこられたということでしょう。
私はまだ死ぬわけにも参りませんが、これからの仕事のことを考えると、良い大学を出ても日本文化などからきし知らず、床の間に腰掛けるような輩が激増していくような日本ですので、高級フォーマルの絵羽物が今後は貸し衣装でも十分だという風潮にますますなっていくだろうと思われます。

ですから、当社が培ってきたものつくりの文化や、過去からの数多くの資料も今後無用となるのかと思うといたたまれません。

現実に年々、そういう言う物作りは一段と減少していますし、職人さんの仕事も激減状態です。

そういう環境に鑑みて、私もそうした絵羽物の生産は、お誂え以外の見込み生産はこの年内で止めることにいたしました。

銀座に店に千客万来と言うことなら、まだしばらく頑張れるかも知れませんが、時間と金の掛かる高級品の物作りは、現状では厳しいのです。

大変残念で内心忸怩たる物もありますが、職人さんたちの高齢化を考えると、いずれは止まってしまいます。

そうした物作りが仮にとんでもなく細くなり、いずれ作れないという事態が来たとしても、キモノを着たいと思う人は確実に増えていますから、キモノ文化という物が消滅することはありません。

古着やレンタルばかりだけでなく、自分のキモノを買いたいと思っている人も少なくないのですが、相変わらず消費者目線ゼロで、相変わらずの催事販売でとんでもないようなものをとんでもない値で売りつける商いに何の反省もなく、消費者の不安や不信はいつまでも払拭されません。

正しい知識とキモノという文化への造詣を持ち合わせている流通業者が極端に減っている現在では、私は作り手と消費者の仲立ちとしてお手伝いできることは少なくないと思って居ます。

作り手から消費者の手に渡るまでに、いわば川越の渡し賃があまりにも高いという今の業界環境を変えるには、色々な手段もありますし、私もそれに取り組んで来たわけですが、環境が悪化する一方の中で、消費者への直接販売をできるところもそうは多くありません。

ですから私のようにキモノが好きでたくさんきものを買ってきて、キモノを良く着る身として、消費者へ色々アドバイスできることはたくさんあります。

フェースブックの私のキモノ姿を真似てキモノを作ったらとても褒められたと言うような声も聞きますが、業界人でそうした手本になる着姿を提案できる人もほとんどいないと言うことですから、たとえ物作りができなくなっても、私ができることはたくさんありそうです。

リーズナブルに良品を消費者に届けるだけでなく、コーディネーターやアドバイザーとして私が要求される限りは、キモノ文化の将来のために頑張りたいと思うこの頃です。


こんなことが起きるとは

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過日8月2日に、私の人生で最大の不幸が訪れました。

私の京都の自宅が隣家からの出火で延焼し、日本家屋の構造上不可欠な梁とそれに連なる柱が焼けて、修復不可能と建築屋にも言われてしまいました。

私は今仕事に使っているのは元来父が住んでいた数寄屋建築の建物ですが、そこのことではありません。その家から歩いて3分のところに私の自宅があったのです。

もらい火での被害はまさに災難で、法律的な補償を得ることができませんので、一番不幸な出来事です。

不幸中の幸いだったのは、娘が2人目の子を出産するために病院に入院したあとで、私どもも、上の孫も、家に居なかったので人的被害が無かったことです。

隣家は認知症の老女と60過ぎの独身の息子という住まいで、火の不始末が一番恐れていたのですが、案の定ということになってしまいました。

修復不可能と言うことですから、建替えをしなければなりませんし、その間は現在仕事に使っている数寄屋の家の方に寝泊まりすることになりますが、ほぼ1年の間は非常に不便も致します。

仕事上にも色々不都合もありますし、今後のことを色々と熟慮いたしております。

今回のことは、いずれはしなければならない断捨離を想定外のスピードで押し進めることになりますし、そのように背中を押されているようなものです。

有り難いことに次の日に2人目の孫を無事授かりました。

禍福はあざなえる縄のごとしとも言いますし、災い転じて福となるよう、怒りや悔しさで心が折れそうになりますが、奮起して酷暑の中を後片付けを致しております。

気力、体力、そして色々金策もあります。

当面銀座の店での販売が伸びることが必要ですし、お客様に喜んでいただけることを考えております。

大災害に被災された方々に比べればまだまだましな方かとも思いますので、後生のためにも奮闘努力いたしたいと思います。

生地一つで

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当社は先代以来、慶長小袖をベースにした、桶染めによる絞り染めと縫箔の高級な技を駆

使した振り袖を製作して参りましたが、加工度が相当に重いので、生地も特注で、ある丹

後の織屋さんに頼んで直接織っていただいていたのですが、近年の消費減で、私共もかつ

てほど振袖を製作できなくなってしまいました。

それでも残っていた生地を使い切ってしまったので、次に製織依頼をすると、最低ロット

が30反お願いしますと言われ、現状ではとてもそれは無理ですので、結局長い間使って

きた生地を使用できないという事態になりました。

それで今市場で流通している中では一番重めの綸子の生地を使ってみようと言うことで

一枚作って見たのですが、今までの色が出ません。

泰三の振袖の色は、泰三でしか出せないと言われています。長い間一緒にお仕事していた

だいているからこそ出せる色目なのですが、白生地変えたらその色が出なくなってしまい

ました。

非常に難しい問題ですが、その生地を使うなら、以前の色が出るまで、試行錯誤を重ねないとなりません。

深く考えたのですが、色々な諸情勢から鑑みて、大変残念ながら生産を止めることと致しました。

従って現在ある在庫がなくなれば、それまでとなります。

父が初め私が引き継いできた泰三の振袖製作の歴史に幕を引くのは忍びないのですが、

満足のできるものづくりができないと言うのは私の沽券に関わりますし、製作終了の決断

を致しました。最低ロットを小さくしてくれれば考えたのですが、丹後も今大変な状況で

すし仕方ありません。

そんなわけですから泰三の振り袖にご興味ある方は早い目においでください。

チェーン店ごとの売買

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最近チェーン店の売り上げが急減し初め、業績悪化から倒産したところ、あるいはしそうなところも散見します。

ところでそれを買おうというところが出てきて、実際会社ごとあちこちに買われたり、あるいはそういう噂のあるところもあります。

販売店のチェーン店だけでなく、着付けのチェーン店も狙われています。

着付け教室のチェーン店というのは、単にキモノの着付けだけでは経営は成り立ちませんので、結局受講生のキモノ初心者に、キモノを売りつけるというのが本業なのです。

それが比較的良心的な値のところもありますが、とんでもない値で売りつけるどうしようもない下品な経営をいつまでも続けているところもあり苦々しい思いです。

特に無料だとか言って生徒をあつめ三流のモノをとんでもない値で売りつけるところは買わされた人が可哀想なのですが、初心者で、キモノのことなど知らず周りに相談する人もいない女性で、購買力のある人が三流のセンスの悪い商品をとんでもない値で買わされていることに気がつかないまま、色々な催しなどに誘い込まれて買い続けているという現実は気の毒でなりません。

その上そのキモノ姿をSNSなどで貼っているので哀れに思います。

チェーン店各店でも売り上げが、店頭ではなく店外の販売催事に頼っているというあり方が問題で、店に行って名前住所を書くと、すぐさまそうした店外催事に勧誘され、とんでもないモノを売りつけようとするのです。

ところが最近さすがにそうはだまされなくなり、そうした展示会の売り上げが急減しています。
また京都への観光旅行付き販売などという、ツアー販売企画もしょっちゅやるのですが、これにはバックにろくでもない大手問屋がついています。

旅行費用も全部上乗せされているので、これまたとてもリーズナブルとは思えない価格で売りつけます。

これも今年になって相当落ち込んでいるとのことです。
まじめに当たり前のことを当たり前にすることがいつまでたてもできないどころではなく、益々もの知らずの連中が、ろくでもないモノを作り、いい加減に口から出任せで売るなどということが止まりません。

真面目な作り手や売り手の方が多いはずなのですし、ろくでもない魔手に掛からないよう私自身もこれからも真に消費者のために貢献できることを熟考しております。

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