嘆き

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今年も残すところあと1ヶ月足らずとなり、何時もながらですが時の過ぎゆく早さを痛感するこの頃です。

特に高齢となると1日1日が大切なのですが、何となく時間が過ぎて行くことに悔悟の念を持つこの頃でもあります。

まあ私は稽古事等があるので退屈はしませんし、孫がすぐそばにいてくれて毎日世話は大変とは言うものの戯れて癒されており、この子たちの成長が楽しみでもあり、また家庭教育として色々教えて行かなばならないとも思っていますし、あっという間に時間は過ぎて行きます。

ところである程度予想はされていましたが、キモノ業界の市況は10月、11月と過去最悪の様相で、ものづくりは一段と減退しています。

現実に売れていないわけで、まあ小さくコツコツ商っていたようなところは別にして、ある程度の商いが無いと回って行かないところは必死です。

資産もあって借金も少ないところは、まだ持ちこたえられるでしょうが、財務内容の悪いいわば自転車操業のところは、どんなことをしてでも売れ売れという事で、本来の商いの基本からどんどん離れたとんでもないことをしがちです。

小さな専門店は別にして、売り上げ至上主義の店は近年店外催事での商いが当たり前になっていて、それもとんでもない掛け率で売ろうとするので、従来からも批判があったのですが、それに拍車がかかって、べらぼうな掛け率で値づけをして、それをまたべらぼうな値引きをするという信用構築とは無縁の、どの物販でもやらない史上最低の商いが平気で進行しているのです。

先日あるメーカーの人と話をしていたのですが、そこの品物は質は良いのですが、チェーン店などに問屋経由で流れているので、従来からメーカー出し値の10倍から12倍などと言う呆れる値になっていたのが、最近そうした売り手の焦りなのか、20倍、あるいは30倍もの値入をして、それをまたとんでもない値引きをするという実に下品な商いが当たり前のように横行したり、中にはゼロ一つ取るつまり9割引きまで出ているそうです。

こんな商いが通じるわけもなく、騙されて買っている人がいたところで、その嘘はいずれ見抜かれますし、挙句の果ては倒産への道を歩むでしょう。

現に過日地方のチェーン店がまた倒産しましたし、いわゆるNCも大苦戦をしているので、来年にかけて淘汰されるところが予想されます。

中にはほんのわずかながら業績好調の店がありますが、それはレンタルと写真館併設のビジネスが伸びているところで、物販比率が低いところという事です。

人生の色々な祝い事やシーンを貸し衣装ですまし、写真だけが残るという傾向は今後も益々常態化して行くことでしょうし、抗えません。

まあ仮に買っても捨ててもいというような安価なものへシフトするでしょう。

過日ある女性から卒園式入学式に子供にキモノを着せて袴も着けさせるというのですが、
貸衣装では全部ペラペラのポリエステルだから、絹ものがないのか探してほしいと言われましたが、こういう人は極めてまれで、作り手も貸衣装業者向けのものが主流で、さんざん探しましたが全てポリエステルでした。

絹ものがどうしても欲しいというのなら誂えるしかなく、結構な値になってしまうのです。
これからも、良いものが欲しいとなると誂えるしかなくなり、コストが非常に上がります。それに良い生地もなくなりつつありますし、職人さんも次々上がっていきます。
当社でも2代にわたり、60年以上付き合っていた糸め糊置きの名人職人さんが喜寿ともなり、手も落ちてきて辞めると言ってきました。まあ当方もここのところ潤沢に仕事を出させてもらえなかったという事もありますが、寄る年波には勝てないという事なのでしょう。
こうした人が次々出てくるのは予想に難くなく、手描き友禅の危機はまさに待ったなしの状況となってきました。
しかし市況が回復しなければ打つ手はありませんし、売り手が奮起して良識ある商いに目覚めて欲しいのですがこれまた期待薄です。

これからも続く淘汰の波をどうかいくぐっていくのかということで、まあある意味面白いとも言えますが、我々が良しとして作ってきたものが作れないという悔しさや寂しさはどうしようもありませんね。

更なる価値感の多様化

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東京に所用がいくつもあって行ってまいりましたが、また新しいビルやホテルが建っていたりして驚きますし、人の多さに圧倒されます。

また新しい私鉄の乗り入れも始まり、今や東京を中心に関東一円から、地方から東京へ東京へと人が流入してきますので、この10年ほどで東京も大きく姿を変えていますし、人も変りました。
色々な地方からの人の話す言葉のアクセントから、
石川啄木の和歌、「故郷の訛りなつかし停車場の、人混みの中にそを聴きに行く」を思い出します。
その上今は中国語や色々な国の言葉まで聞こえてきます。

色々な人が住むことで、東京の土着の文化も序々に影が薄くなり、雑多な文化が混在することとなり、同時に従来の常識とされた伝統文化の陰も薄れていきます。

今東京にはそういう意味で、実に多様な文化や価値観が存在しているわけで、そのため個性のない街と成りつつあると言うことも言えます。

こうした現象は東京だけでなく大都市部では共通のことで、そのことでどの街も同じような様相を持つこととなりがちです。

振り返ってキモノという文化も、今は本当に多様な側面を持っているわけで、何が正しいとか間違っているとは一概にはいえません。

作り手としては平準な規格がなくなっていくことで、大変迷い混乱します。

勿論1つには売り手側にこれといった個性を求める物がすくなくなっていることもあるのですが、社会背景が大きく変わり、伝統文化への知識や理解、見識を持つ者が減っているという側面が大きいのです。

全ての消費者に通じる価値観がなくなっていく中で生き延びていくことは大変難しいですが、こんな時だから自分好みという物を大事にしたいのです。

作り手も雑音に惑わされることなく、自分好みのセンスを貫くことでしょうし、売り手も同様にその好みを明確にしていくことでしょう。

オリジナリティが発揮しやすい時代とも思われますから、難しい地代は逆にチャンスだと捉えて、自らの信念を貫くことだと思います。

それを愛でる客だけで商えばいいわけですし、欲をかかずに楽しく物作りはしたいものです。

若い人は迷うでしょうが、自らの感性を高めるために、一生懸命見聞を広め勉強していくことは行くことは言うまでもありませんね。

泰三の付下げ

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近年、いわゆる絵羽物、つまりキモノの形をして売られるもの、すなわち、振袖、黒留袖、色留袖、訪問着が売れないと言って作り手は嘆いています。

そのうちの振袖は今や6割がインクジェットなどの機械染めですし、手描き友禅の本物の生産は減る一方です。

黒留袖や色留袖も最近はレンタル需要が急激に増えて、生産は激減です。

残る訪問着も、加工の重いものは着ていく場所が無いと言うことで軽めが好まれますが、
それだと付下げで充分と言うことで、ここのところ手描き友禅のキモノは付下げの生産が一番多いのです。

ところがそれも段々売れなくなりつつあり、作り手としてはどうすれば良いのか苦闘しています。
直近では台風や水害での惨状や消費税アップということで一時的には購買欲が下がるのは当然ですが、それで無くてもこの1年一段と需要が減り、生産も細る一方なのです。

しかしこれは私に言わせると売れないという原因が明らかに存在するからです。

泰三は高級な絵羽しか作っていないと誤解されている方が多いですが、実は結構付け下げも作ってきましたし、現実に良くお買い求め頂いております。

先日も東京から初めておいでになった方が、色々ご覧になっている内に泰三オリジナルの付下げをお求めになりましたが、私はそうやって買われる方の御希望や用途が大体想像がつく事と、これだったら買えるという価格を提示しております。

最近付下げをお求めになりたいという方々は、入学式、七五三などの儀式事や、一寸したお祝いのお呼ばれ、プライべートの会食や観劇、お茶会での着用など、割と幅広い用途を考えておられますので、文様は基本的に古典で、あっさりとしていて飽きが来ないけれどそれなりに重みも欲しいと言うことなのです。

私は色々な場所を経験していますから、そういう思いが良く分かりますので、従来から有職文様を中心としたセミフォーマル的な付下げを製作してきました。

淡彩の友禅に縫箔の加工をした物が好評ですが、中には刺繍だけの重い加工のものもありそれはそれで美しいのです。

物によりますが、ややフォーマルの柄を使うときには生地を4丈で染めて共八掛にしますので仕立て上がるとやや軽めの訪問着という事になります。

そして問題は価格ですが、私は友禅物なら大体50万円から60万位を中心に考えています。そしてそれは裏地代、仕立て代、紋入れ代、撥水加工代、そして税金込みの値段です。

つまりすべて込みで50万円から60万くらいなら自分で払えるという女性も意外に多いのです。

勿論一寸加工の重いものや軽い加工のものはそのかぎりではありませんが、少なくとも値打ちがあると言う価格に設定はしているつもりです。

ところが世の中を見渡すと、それ位の価格では本友禅の付下げはなかなか買えないようです。

専門店やチェーン店の店外催事での販売ではとんでもない掛け率で売っているものも多く、高いというと大幅な値引きをしてくるような下品な商いが横行しており、その値引きした額でもまだまだとんでもなく高く、その上に仕立て代などがかかりますし、とても私の設定する価格にはほど遠いのです。

またデパートも最近はとんでもなく高いものが多く、第一裏地代や仕立て代で儲けようという浅ましさで、本当にお客のことを考えた商いなどまるでしていません。

ただ実際は真面目な価格で売っているところの方が多いのでしょうが、それが何処にあるのか分からないのと、行っても私の作る様な物が売っていないとよく言われます。

問屋からの委託だけで商っているところには、実際私が見て良いなと思う物がすくないのは事実です。

あまりに欲をかかないで、お客の声を良く聞いて、それなりの物を仕入れる、作らせるということを地道にこつこつと続けていれば今のような状況になっていなかったでしょう。

商売人として当り前のことをするということが結局はながく続けられることになるのです。ただ最近は伝統文化1つ知らないような輩が偉そうにネット上でこれからのキモノ業界はこうだとばかりに安物のペラペラの低級品を押しつけようとしていて、暗澹たる思いでおります。

結局勉強不足なので、文化としてキモノを着ようというお客様の心が理解できないのです。
商いは運根鈍と言いますが、手っ取り早くたくさん売りたいということで店外で売ることが当り前のようになってしまった業界人の基本が抜けた考えに、作り手はふりまわされ疲弊しやがてまじめのものほど辞めていくのです。

いまほど流通側ほど人材が強烈に劣化している現実では、しばらく隠居できませんが、それも健康とお客様の声あってのことです。
でも気持ちは前向きに来年からも諦めないで頑張りたいと思います。


早期発見

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私が入退院してから2週間後に、今度は家内が同じ京大に入院いたしました。

脳のMRI検査の結果、未破裂脳動脈瘤が見つかり、まだ5ミリ程度とはいえ、数年前に見つかったときが2ミリだったこともあって、今後も大きくなる可能性もあるので、今のうちに処置した方が良いだろうと言うことだったのです。

ちょっとリスクはありましたが、家内の場合はクリップで止める方法しか無いと言うことで、開頭手術となったのです。

手術は無事成功したのですが、手術あとの腫れがまだ引きませんし、完全回復までは少し時間がかかりそうです。

私の場合もそうですが、普段から定期的に検査をしていたから早く見つかったわけで、
多少リスクがあっても早い目に処置をすることでいわば寿命が延びると言うことでしょう。

経営でも同じです。おかしな事は大事ごとにならない間に摘んでしまうと言うことが大事です。先送りをすることで取り返しのならない事態になってしまったということが今の時代に、日常茶飯事のごとくよくあるのは、決断力や行動力が著しく低下しているからでしょうか。情けない話です。

そんなわけで泰三の会は9月以降中止しておりますし、年内も開催は難しいのですが、来年からまたご期待にそえるよう再開いたします。

アンテナショップ

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過日大阪の心斎橋大丸が改装なったので、見に行ってまいりました。

今どきのデパートですから完全なテナントによる経営で、実は呉服売り場がなく、老舗の問屋のアンテナショップとリサイクルの店があるのみです。

このデパートは創業時は呉服屋ですが、いわゆる呉服売り場(あるいはきもの売り場)が無くなりました。
ではキモノを売らないのかというとそうではなくて、外商の客対象の店外催事で売れば良いと思っているのです。
そしてこの傾向は全国のデパートに広がっていて、売り場が無くなるという事は、新規客が店内で買い求めるという事が無く、それで良いという事なのでしょう。

こうした事態となると、これからキモノを買っていこうと思っている人たちの購買機会を益々取り上げることとなり、新しいキモノ需要者を獲得したり啓蒙して行くことは不可能です。

老舗製造問屋が自らの名で出店するアンテナショップ形式はいわゆるSPAで、私は事実そうやって銀座で頑張ってきましたし、消費者にとっても一番ありうべき姿だとは思うのですが、直接消費者に発信していくには、それなりの戦略が必要ですし、
出店することのリスクもよく考えなければなりません。

今回視察した店は、いったい誰を対象にしているのかそのコンセプトが明確ではありませんし、明らかにインクジェットで生産されたと思われる小紋に非常識な値がついているような気がしますし、誰を対象にしているのかよく見えません。

この店がうまくいくかどうかは別にして、デパート呉服の売り場の新しい形として、今後の推移を見守りたいと思います。

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